私たちの生活環境に貢献するオゾン

私たちの生活環境に貢献するオゾン

 環境問題は、単にある地方や国に限られたものではなく、もはや地球規模の問題になっています。それは、私たちの生活にも最も見せつな水と空気の自由な使用をも揺るがす重大な問題だからです。環境問題や公衆衛生問題(新型コロナウイルス)が今日のようにこれほど大きな問題とならなければ、オゾンもこれほどまでに注目されていなかったと思います。

 オゾンは200年以上も前からその存在がわかっており、少し遅れてその酸化力の強さもほぼ確かめられていました。にもかかわらず今日まであまり利用されてこなかった理由は何故でしょうか。人工的につくり出すオゾンのコストが高かったこともありますが、オゾンに頼らなくても自然環境はなんとか私たちの生活に支障のないように保たれていたからです。健康な人であれば多少の病気には常に体内の抵抗力が強化され、簡単には病気に罹らないことに似ています。環境も健康も正常状態が維持されるようにバランスが保たれているものです。自然環境が保持できなくなってきたのは、人口増加と生活環境の変化によって環境破壊成分の排出量が著しく増加したからに他なりません。

 今この記事を読んでくださっているあなたは水も空気も、今では「タダ」ではなくなってきていることに薄々気づいているのではないでしょうか。まだあまり強く意識はしていないかもしれませんが、ペットボトルの水を飲むのもエアコンや空気清浄、オゾン発生器の作動した部屋にいるのもこの端的な例だと言えるでしょう。そして、オゾン層同様に、オゾンは気が付かないところで私たちの生活環境を守り続けてくれているのです。

 オゾンは水と空気の殺菌、脱色、脱臭、ウイルス不活化に有効に作用しますが、その他ハイテク分野でも半導体の加工技術、魚介類の養殖、植物の栽培などにも確実にその応用範囲は広がっています。医療分野でのオゾンの適用についてはまだ日本においては草創期であると言えます。それは病気に対するオゾンの効果がまだ安心できるまでに科学的に解明されている症例が多くないからです。しかし、私たち奈良県やまとオゾン研究センターは、時にあえてオゾン医療に関しても言及していきます。もちろん、科学的な根拠をベースに、です。それは厳密な原因はともかくとして、オゾン治療によって病気の治癒効果が明瞭に確認できている症例も増えてきているというのも事実であり、オゾン治療が今後大いに期待できると考えているからです。

 オゾンの応用範囲が拡大されてきたのは明確な理由があります。オゾンの酸化力がきわめて強いことも一つの理由ですが、オゾン処理においてはオゾンを過剰に利用しても過剰分のオゾンは酸素分子となり、害にはならないからです。過剰分がまったく無害の分子になるという性質はオゾン以外の分子・原子にはない性質なのです。

 環境問題は改善技術がもぐら叩きのようであってはなりません。一つの有害物質を処理できたとしても、それに伴って他の有害物質を排出していては、環境の改善にはまったく役立たないからです。それは病気に対してどんな素晴らしい特効薬であっても、副作用があってはその副作用を抑えるための薬がまた必要になることに似ているかもしれません。オゾンはそんな状況下にある現在の環境汚染改善技術や公衆衛生技術に対し、救世主になってくれるであろうと専門業界の間ではかなり大きな期待があります。

 オゾンが環境浄化や公衆衛生の万能薬とまでは言いませんが、環境改善・公衆衛生の向上を考えた場合、きわめて大きな武器であることは間違いありません。このようなオゾン利用の近頃の急展開は、以前には想像しがたく、言うまでもなく新型コロナウイルスが原因で奈良県立医科大学がオゾン不活化実験を発表し、オゾンが改めて注目されることになりました。これから先、新型コロナウイルスだけではなく、新たな「新型ウイルス」に対しても、オゾンが日本、世界の公衆衛生に大きな役割を果たしてくれると期待しています。

院内感染から身を守るためのオゾン

院内感染から身を守るためのオゾン

 新型コロナウイルスによる院内感染が世間を騒がせているようなので、今回は「菌を酸化して殺す(殺菌)」「ウイルス不活化」について書いてみたいと思います。2020年に入ってからというもの、中国を震源地とする新型コロナウイルスで世界中がパニックに陥っています。その新型コロナウイルス騒動が原因で、以前より殺菌や不活化と言う言葉がよく使われるようになってきたように感じます。特に、新型コロナウイルスによる院内感染が注目され、メディアは連日そのことを報道しています。院内感染が問題視されるのは、免疫機能の低下した患者や医療体制圧迫によるストレス過多の医療従事者たちにとって新型コロナウイルスに感染することが致命的になる厄介なウイルスだからです。

 この防止対策として手洗いが短時間で殺菌できる有効な方法であることは政府、厚生労働省、数多くの医療従事者たちが呼びかけてきました。なかでも、藤田医科大学付属病院がオゾンを利用した殺菌消毒を行っていることは話題になりました。

オゾン発生機にて消毒を実施、その後に次亜塩素酸による清拭を行い、最後にUV照射を行っております。
藤田医科大学附属病院

 今やオゾンを利用した殺菌消毒作業は、医療施設において必要不可欠の技術となってきています。殺菌は、厳密には滅菌と消毒がありますが、煮沸などの物理的な方法により殺菌することを滅菌と呼び、科学的な方法により殺菌することを消毒と呼んでいます。ここでは厳密に区別せずに殺菌作用について述べることにします。

 今まで気体中で行う殺菌剤としては塩素、二酸化塩素、一塩化臭素、エチレンオキシドやオゾンなどが使われてきました。いずれの殺菌剤もその効果は酸化力の強さに依存するものです。中でもオゾンはフッ素に次ぐ酸化力があり、塩素と比較するとその効果は6倍超の酸化力があることで知られています。オゾンは、ここに掲げた中では殺菌力が高く、本来の目的からすると殺菌剤の中では最も優れていると言えるでしょう。しかし、オゾンは前述したように高価であり、残存時間が短いため、この二項については他の殺菌剤に1歩譲っていることも事実です。

 殺菌を行うには気体の中で行う場合と液体の中で行う場合とがあります。固体表面を殺菌する場合もありますが、これは気体の中で行う場合と同じと考えてよいでしょう。殺菌の対象となる菌やウイルスは無限とも言えるほど種類は多くありますが、これまでに水中で検討された微生物をリストアップしたのが表3-3になります。ここにリストアップされたいずれの微生物も比較的短時間で不活化率がほぼ100%に達しており、ほとんどの微生物はここに示された処理条件で不活化したことを示しています。
ここで不活化率とは、保存による殺菌処理をする前の微生物の数とこの数のうち、オゾン殺菌によって取り除かれた数の割合で示しています。

 この表の結果から、殺菌にはオゾン処理がいかに有効であるかがわかります。また実際にオゾンに対するいろいろな微生物の耐性を表の中では殺菌作用定数CTとして評価しています。
このCTとは、オゾン濃度C(mg/ℓ)と接触時間T(分)の積で表され、殺菌作用はCTに逆比例していています。表中の値は、99%微生物を不活化するCT値で評価しています。また、CTが小さいほどオゾン処理がしやすい微生物であることを意味しており、不活化率やCT値をみると、ほとんどの微生物はオゾンによる殺菌効果が顕著に現れていると言えます。しかし、微生物によってはあまり処理効果の高くないものもあることがわかります。オゾン殺菌とは、対象とする菌を酸化して活性を失わせてしまうことであり、気体・液体による区別も分類もないのです。