私たちの生活環境に貢献するオゾン

私たちの生活環境に貢献するオゾン

 環境問題は、単にある地方や国に限られたものではなく、もはや地球規模の問題になっています。それは、私たちの生活にも最も見せつな水と空気の自由な使用をも揺るがす重大な問題だからです。環境問題や公衆衛生問題(新型コロナウイルス)が今日のようにこれほど大きな問題とならなければ、オゾンもこれほどまでに注目されていなかったと思います。

 オゾンは200年以上も前からその存在がわかっており、少し遅れてその酸化力の強さもほぼ確かめられていました。にもかかわらず今日まであまり利用されてこなかった理由は何故でしょうか。人工的につくり出すオゾンのコストが高かったこともありますが、オゾンに頼らなくても自然環境はなんとか私たちの生活に支障のないように保たれていたからです。健康な人であれば多少の病気には常に体内の抵抗力が強化され、簡単には病気に罹らないことに似ています。環境も健康も正常状態が維持されるようにバランスが保たれているものです。自然環境が保持できなくなってきたのは、人口増加と生活環境の変化によって環境破壊成分の排出量が著しく増加したからに他なりません。

 今この記事を読んでくださっているあなたは水も空気も、今では「タダ」ではなくなってきていることに薄々気づいているのではないでしょうか。まだあまり強く意識はしていないかもしれませんが、ペットボトルの水を飲むのもエアコンや空気清浄、オゾン発生器の作動した部屋にいるのもこの端的な例だと言えるでしょう。そして、オゾン層同様に、オゾンは気が付かないところで私たちの生活環境を守り続けてくれているのです。

 オゾンは水と空気の殺菌、脱色、脱臭、ウイルス不活化に有効に作用しますが、その他ハイテク分野でも半導体の加工技術、魚介類の養殖、植物の栽培などにも確実にその応用範囲は広がっています。医療分野でのオゾンの適用についてはまだ日本においては草創期であると言えます。それは病気に対するオゾンの効果がまだ安心できるまでに科学的に解明されている症例が多くないからです。しかし、私たち奈良県やまとオゾン研究センターは、時にあえてオゾン医療に関しても言及していきます。もちろん、科学的な根拠をベースに、です。それは厳密な原因はともかくとして、オゾン治療によって病気の治癒効果が明瞭に確認できている症例も増えてきているというのも事実であり、オゾン治療が今後大いに期待できると考えているからです。

 オゾンの応用範囲が拡大されてきたのは明確な理由があります。オゾンの酸化力がきわめて強いことも一つの理由ですが、オゾン処理においてはオゾンを過剰に利用しても過剰分のオゾンは酸素分子となり、害にはならないからです。過剰分がまったく無害の分子になるという性質はオゾン以外の分子・原子にはない性質なのです。

 環境問題は改善技術がもぐら叩きのようであってはなりません。一つの有害物質を処理できたとしても、それに伴って他の有害物質を排出していては、環境の改善にはまったく役立たないからです。それは病気に対してどんな素晴らしい特効薬であっても、副作用があってはその副作用を抑えるための薬がまた必要になることに似ているかもしれません。オゾンはそんな状況下にある現在の環境汚染改善技術や公衆衛生技術に対し、救世主になってくれるであろうと専門業界の間ではかなり大きな期待があります。

 オゾンが環境浄化や公衆衛生の万能薬とまでは言いませんが、環境改善・公衆衛生の向上を考えた場合、きわめて大きな武器であることは間違いありません。このようなオゾン利用の近頃の急展開は、以前には想像しがたく、言うまでもなく新型コロナウイルスが原因で奈良県立医科大学がオゾン不活化実験を発表し、オゾンが改めて注目されることになりました。これから先、新型コロナウイルスだけではなく、新たな「新型ウイルス」に対しても、オゾンが日本、世界の公衆衛生に大きな役割を果たしてくれると期待しています。

変形性関節症(OA)に対するオゾン療法の効果〜レビュー論文から

変形性関節症(OA)に対するオゾン療法の効果〜レビュー論文から

近年、日本で急増している変形性関節症(osteoarthritis=OA、骨の関節炎)の治療の選択肢の一つとして、オゾン療法が注目されています。

超高齢化社会の進行に伴って、日本のOA患者数は増加しており、一説によれば2500万人にも上るとされます。OAは、初めのうちは激しい痛みを伴いません。しかし、年齢のせいだろうと思って放置しておくと、そのうちに痛みがひどくなり、悪くすると日常生活にも支障が生じてきます。そうならないうちの早めの対応が必要です。その一つの選択肢がオゾン療法です。

ここでは、OAに対するオゾン療法の効果についてレビューしている最近の論文を紹介します。

オゾン療法には医学的な効果はないとする意見があります。この記事を読んで、オゾンによるOAに対する治療効果を理解していただき、オゾン療法に対する誤った先入観を払しょくしていただければと思います。

OAとはどんな病気?

OAは、膝、手、足、脊椎の関節や股関節に起きる炎症です。その中でも、変形性膝関節症(knee osteoarthritis=KOA、膝の骨の関節炎)が最もポピュラーです。

膝などの関節の痛みが特徴で、長期間に渡って痛みが続きます。初めのうちは、階段の昇り降りや、座った時に痛みがでます。徐々に、手足の曲げ伸ばしに支障が出てきて、立ち上がったり、平地を歩行する際にも痛みが出るように。KOAの場合には、膝に力が加わる、歩き始めや長時間歩行の後などに痛みが出やすい特徴があります。病状の進行に伴って、関節に慢性の炎症が起こり、関節内の関節液が溜まってきます。そして、次第に日常生活にも支障をきたすようになってQOLの著しい低下を引き起こします。介護保険での「要介護」に認定されるケースで最も多い疾患です。

OAには、直接的な原因の分かっているタイプもありますが、多くの場合、原因がはっきりしません。KOAでは、膝に過重な力が加わることが、軟骨を傷つけて発症を引き起こすと考えられています。例えば、O脚やX脚による膝へのストレス、スポーツでの膝の酷使などです。また、体重増加により膝に過大な重力がかかることも原因の一つです。

OAの診断は問診から始められます。痛みの程度を把握した上で、X線検査によって骨の状態を検査します。その結果、典型的なKOAでは、軟骨がすり減る結果、関節の骨の間が狭くなった状態が観察できます。骨から棘状の突起が出ていたり、骨の中に小さな空洞ができていることも。大腿骨骨頭壊死という指定難病と区別するためにMRI検査も必要です。関節に腫れがある場合、関節リウマチや痛風の疑いを排除するために血液検査を行います。

軽度~中程度のOAでは、薬剤治療を行わずに、傷んだ関節周囲の筋肉を補強して骨への負担を減らすことを目的としたストレッチ運動が第一選択肢になります。これに併せて、減量の指導も行われます。症状が進行した場合、薬剤を使った治療が選択肢に。それには、非ステロイド系の鎮痛消炎剤湿布の貼付、ステロイドやヒアルロン酸の関節内注射があります。

さらに重症の場合には、膝関節矯正手術や人工関節埋め込み手術なども行われます。これらの治療のほかに、主に関節の痛みを減らすために、関節内オゾン注入療法も試みられています*1, *2, *3。

OAの治療にオゾンは有効か?最近の2本のレビュー論文から

最近発表された2本のレビュー論文から、OA治療に対するオゾン療法の有効性に関して検討します。

対象となる論文は、2本です。

(1)イランのSeyed Ahmad Raeissadat博士らが2018年に発表した「変形性膝関節症患者における関節内オゾン(O2-O3)注射の有効性の調査:系統的レビューとメタ分析」 (An investigation into the efficacy of intra-articular ozone (O2–O3) injection in patients with knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis)*4

(2) 同じイランのAliNoori-Zadeha博士らが2019年に発表した「関節内オゾン療法は変形性膝関節症患者の痛みを効率的に軽減する:系統的レビューとメタ分析」 (Intra-articular ozone therapy efficiently attenuates pain in knee osteoarthritic subjects: A systematic review and meta-analysis) *5です。

この2本の論文では、2018年までに公表された、OA患者に対する関節内オゾン注射治療結果に関する多くの論文をデータベース上から抽出して比較検討し、オゾン療法の評価(レビュー)を行っています。

このテーマに関連する内容でのオンラインデータベース検索でヒットした最大3,000件以上の論文の中から、科学的な評価に耐えうると判断された5~10件の論文が研究対象として選別されました。研究対象から除外された論文は、英文で書かれていないもの、オゾン以外の治療を含むもの、データ提示が不完全なもの、統計解析がきちんと行われていないものなどです。研究対象になった研究は、2012年~2018年にかけて公表された、最近のものです。

この2本のレビュー論文のように、多くの研究結果について統計解析を行い、解析結果をまとめて、検討する研究手法をメタアナリシス(META-ANALYSIS)と言います。検索用のデータベースとして使われたのは、PubMed, PubMed Central、Medline、Scopus、Embase, Cochrane Central Register of Controlled Trials, Google Scholar、およびClinicaltrials.govです。

オゾン療法の評価には、治療の前と後での関節痛の程度や関節の可動能が基準とされています。この基準の算出は、米国疼痛学会が膝の機能の評価に用いている指標の視覚アナログスケール(VAS**1)とWOMAC**2を基に行われました。従って、疼痛レベルを、VASやWOMACを使って評価していない論文は研究対象から除外されました。その一方で、患者のOAの進行度、疼痛のタイプ、性別、年齢、人種については解析対象とはなっていません。

**1VAS(Visual Analog Scale):0を全く痛みのない状態、100をこれまで経験した一番強い痛みとして、痛みの程度が0-100の間のどの位なのかを示す指数で、問診の際に良く使われます。0-100のスケールの入った左右の長さが10㎝の紙を問診者に見せて、痛みの程度がスケールのどのあたりに相当するのかを視覚的に判断するものです。値が小さいほど痛みが少ないことを意味します*6。

**2WOMAC(Western Ontario and McMaste Universities Osteoarthritis Index=西オンタリオ大学およびマクマスター大学の変形性関節症指数):関節の痛みと機能に関する24の項目について1~4点で評価を行い、評価を総合して0点から96点の点数評価を行います。痛みに関する評価項目には、ウオーキング、階段の昇り降り、夜間痛などがあります。0:痛みが無い、1:少し痛む、2:中程度の痛み、3:かなり強い痛み、4:極度に強い痛みの5段階評価です。

身体機能に関する評価項目には、階段を昇る、階段を降りる、椅子から立ち上がる、平坦なところを歩く、ベッドから起き上がる、ベッドに横になっている、椅子に座る、軽い家事、重い家事などが含まれます*7 。

データ解析には統計解析の手法が使われました。

研究の調査対象者数(治験者数)

2本のレビュー研究の中で研究対象となった治験者**3総数は約400人で、治験者数の年齢は30歳~81歳で女性が過半数。国籍は、イラン、トルコ、イタリア、スペイン、中国、ブラジル、キューバです。

**3治験者:有効な薬を治療に使うためには、薬の候補になる成分を調べ、それを動物や人に投与して、その安全性や効果のほどを確かめる必要があります。人で行われる試験のことを治験と言い、治験を受ける患者あるいは健常者のことを治験者と言います*8。

このうちの約半数がオゾン治療を受けた治験者グループ(オゾン群)、残りの半数がオゾン治療を受けなかった治験者グループ(コントロール群、対象群)です。オゾン15㎍~30㎍を含む7~15mlの溶液を週に一回のペースで患部に注入しました。コントロールにはヒアルロン酸(HA)やデキストローズが用いられ、例えば、12.5%のデキストローズを10日間隔で注入しました。プラセボ群**4には、10 mlの空気を注入しました。

**4プラセボ:薬の効果を調べる臨床試験(治験)で有効成分を含まない薬(偽薬)のこと。被治験者にプラセボと知らせずに薬を飲ませると、本物の薬を飲んだと錯覚して、心理的要因で効果を示すことがあります。このため、信頼度の高い治験を行う場合には、医者にも被治験者にも、どれが本当の薬か、どれが偽薬かを知らせずに行います。この方法を二重盲検法と言い、被治験者はもちろん、医者も全くの中立状態で治験に臨むことができます*9,*10

治験者のOAグレードは、グレードIIとグレードIIIが中心で、前者の比率の方がやや多くなっていました。治験者の経過観察は、全ての調査で2か月間以上に渡って行われています。

研究結果

VASとWOMACのスコアを、オゾン治療群とコントロール群の間で、治療開始前後で比較し、評価しました。

例えば、VAS疼痛スコアが治療前に5であった治験者が、オゾン治療後にVASスコアが0に改善したとすると、VASスコア改善値は-5(5ポイント改善)になります。一方、VASスコアが治療前に5であった治験者が、HA治療後に3に改善したとすると、VASスコア改善値は-2(2ポイント改善)になります。その結果、オゾン治療群とコントロール群(HA治療治験者)の間でのVAS疼痛スコア改善値は、オゾン治療群の方が3ポイント良いことになります。

本レビュー研究では、この計算を、治療期間ごとのVASスコアとWOMACスコアについて行ったものです。

オゾン群とコントロール群間でのVASスコアの比較

オゾン群とコントロール群の平均VAS値の比較(オゾン群のVAS値 – コントロール群のVAS値)は、治験開始1か月後には、平均値で-0.23(最低-1.46~最大1.00)で、オゾン群の方がコントロール群よりも0.23低い値を示しました。これは、オゾン群の方が、より優れた疼痛改善を示したことを意味します。

この値は、治験開始2~3か月後には0.28(-1.46~2.02)に上昇し、4~6か月後には-0.12(-3.10-3.00)と再び減少し、12か月後には0.80(0.43-1.17)に上昇しました。このように、長期間の治療では、オゾン群とコントロール群間での疼痛改善効果に差がないか、オゾン群の方がコントロール群よりも、やや疼痛改善効果が弱いことが示されました。

ただし、空気のみを注射したプラセボグループと比較すると、長期間に渡って、オゾン群の方が顕著な改善を見せました。

オゾン群とコントロール群間でのWOMACスコア(WOMACの疼痛スコア)の比較

オゾン群とコントロール群のWOMAC疼痛スコアの比較(オゾン群のWOMAC値 – コントロール群のWOMAC値)は、治験開始の1か月後には平均-1.45 (最小-4.12~最大0.91)とオゾンの優れた抗疼痛効果が示されました。しかし、2~3か月後には0.98(-2.85~5.37)、4~6か月後でも同じ値となり、長期間の治療では、オゾン治療の効果が低下する傾向が示されました。

以上より、VASでもWOMACでも、疼痛に対するオゾン治療効果は、短期間の場合に、より顕著に発揮されることが明らかになりました。

オゾン群とコントロール群間でのWOMACスコア(WOMACの膝機能スコア)の比較

WOMACの膝機能スコアに関しても、疼痛スコアと同様の結果が得られています。すなわち、治験開始の1か月後には、平均-0.29(最小-1.13~最大0.65)と優れた値を示しましたが、2~3か月後には0.17(-1.08~1.55)に、4~6か月後には0.76(-0.66~3.10)へと変化しました。

ただし、空気のみを注射したプラセボグループと比較すると、WOMACの疼痛スコア、WOMACの膝機能スコアのいずれにおいても、オゾン群は顕著な改善を見せました。

以上より、膝機能に対するオゾン治療効果は、短期間の治療期間の場合に、より顕著に発揮されることが明らかになりました。

オゾン治療の前後でのVASスコアとWOMACスコアの比較

オゾン治療前とオゾン治療開始3〜6か月の間の、治験者の疼痛に関するVASとWOMACスコアの変化が検討されました。その結果は、VASとWOMACスコアが、治験開始前よりも、それぞれ40%と24%の改善を示すことを示しました。このことは、オゾン療法が疼痛緩和に大きな効果を持つことを示しています。

一方、WOMACの膝機能改善スコアでは、関節可動領域**5の範囲などについて17%の改善を示しました。

従って、オゾンは、軽度から中等度の膝OA患者に対して、短期間の痛みの緩和に役立つとともに、膝機能の改善にも一定の改善効果を持つことが明らかになりました。

**5関節可動領域(ROM):身体の各関節が、障害などを起こさない範囲で生理的に動かすことのできる範囲(角度)のこと*11。

副作用

軽微な副作用が、オゾン群の4%と対象群の5.4%に認められました。この値は、プラセボの値とほぼ同じでした。従って、オゾン治療に伴う副作用はほとんどないと解釈できます。

論文のまとめ

これらの解析の結果、既存の一連の証拠は、オゾン注入が軽度から中等度の膝OA患者の短期の治療にとって効果的なことを明らかにしました。
このオゾン療法による治療効果は、プラセボよりも明らかに優れており、コルチコステロイドよりも優れたものでした。また、その他の治療法であるデキストロースやHAとはほぼ同等の効果でした。このオゾン効果は、短期的な治療で最も顕著で、治療期間が長くなるとその効果は薄れていきます。また、オゾン効果は、疼痛軽減について最も顕著な反面、関節の可動性と物理的機能の改善はそれほど目立つものではないと言えます。
研究対象とした論文では、オゾン治療を行った後に関節痛が悪化した例はありませんでした。また、各論文のデータ間に大きな差異が認められましたすなわち、非常に優れたオゾン効果を示すデータ、中程度のオゾン効果を示すデータ、小さなオゾン効果を示すデータの3種類です。このため、実験条件が同じでも、他のデータと比べて大きくずれていたデータは結果の解釈からは除外されています。とくに、長期間に渡る研究結果には大きな違いが現れていたため、今後、より多くの長期間に渡る研究が必要と考えられます。

研究結果に大きなばらつきが認められたのは、分析対象者の国籍や性差、OAの進行度、治療に用いたオゾン量、治療期間、比較対象にした治療方法の問題(オゾン治療何回とHA治療何回を比較するかなど)などに起因するものと思われます。

以上の結果から、オゾン注入療法は、HA注入療法などの現在行われている一般的治療法と比べてそん色のない効果をもたらすことが明らかになりました。オゾン効果は、1~3か月間の短期間に限定されるようですが、その理由は未だ不明です。

考察

この2件のレビュー論文は、最近の信頼できる臨床データから、OA療法が非浸潤的な有力な治療の選択肢になり得ることを示しています。この治療法は、単独でも、また、他の治療法と組み合わせても行うことができるメリットも持ち合わせています。この治療は、OAを根治する治療法ではないものの、患者の苦痛を和らげ、患者のQOL向上に寄与できる可能性が高いものです。

OAの治療にオゾンは有効か?その他のレビュー研究から

(1)イランのM. Hashemiらが2017年に発表した「変形性膝関節症の炎症性サイトカインに対するオゾンの関節注射の効果 (Effect of Intraarticular injection of ozone on inflammatory cytokines in knee osteoarthritis)*12
(2)メキシコのArias-VazquezPIらが発表した「変形性膝関節症の痛みの管理におけるオゾンの短期治療効果:メタ分析」 (Short-Term Therapeutic Effects of Ozone in the Management of Pain in Knee Osteoarthritis: A Meta-Analysis) *13

前者は、1990年1月から2018年1月に公表された論文を、Pubmed、Dialnet、Scielo、Medographicから検索して、レビューしています。最終的な検討に用いられた10件の研究の中には、オゾン群とコントロール群を合わせた約800人の治験者が含まれていました。

レビュー結果は、データ変動率が高かったものの、全体的に、オゾン群での治療効果はプラセボよりも高く、他の治療法に匹敵する効果を示しました。重大な副作用の報告は認められませんでした。この研究結果から、関節内オゾン治療は、短期的には効果的と思われます。しかし、その有効性を確認し、長期的な安全性を分析するには、今後のさらなる研究が必要とされています。

後者は、2018年1月までに報告された研究を、PUBMED、DIALNET、SCIELO、MEDIGRAPHIC、およびISCO3データベースから抽出し、レビューしています。オゾン治療群とコントロール群の計700人以上を対象としたメタ分析です。

この論文でのレビュー結果は、プラセボと比較して、オゾン治療は、効果が大きく、HAや多血小板血漿療法と比較しても遜色ない効果が認められました。とくに、痛みに対する短期的な効果(1か月で最大効果に達する)が大きく、効果が6か月間持続するというデータも含まれています。ただし、全般的には、長期間の使用で効果がだんだんと減少する傾向が認められました。

まとめ

この記事で取り上げたのは、代表的ないくつかの論文で示されたOAに対するオゾン治療効果の平均的な結果であり、対象とした論文の中には、平均的な結果よりもはるかに優れたオゾン効果を報告しているものも含まれます。

今後、より多くの研究が行われることによって、OAに対する新しいオゾンの効果が明らかになると考えられます。薬剤のような残存性が無く、副作用の心配が小さいオゾン治療の今後に期待がかかります。

参考論文
*1 https://kansetsu-life.com/comm_dict_pro/result.html?l=OA
*2 https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/seikei/about/disease/kanja02_01.html
*3 https://www.min-iren.gr.jp/?p=7711
*4 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6207244/
*5 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0965229918307337?via%3Dihub
*6 https://toutsu.jp/flow/
*7 https://mchiro.exblog.jp/24021023/
*8 https://www.ncchd.go.jp/scholar/clinical/chiken/patient/about.html
*9 http://www.kyumed.jp/chiken/ordinary3.html
*10 https://www.pharm.or.jp/dictionary/
*11 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-060.html
*12 https://pmc.carenet.com/
*13 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/pmrj.12088

新型コロナウイルス感染症に対するオゾンの有効性―オゾン治療の可能性

新型コロナウイルス感染症に対するオゾンの有効性―オゾン治療の可能性

2019年末に中国の武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界中で広まり、すでにパンデミックになっています。残念ながら、COVID-19を治療するためのワクチンや効果的な抗ウイルス薬はまだありません。感染した患者の中には、急速に症状が悪化して、挿管や人工呼吸を必要とする人も少なくありません。そのため、多くの国では、換気装置と集中治療ベッドの不足により、医療システムの崩壊に至っています。

オゾンは、その特別な生物学的特性により、新型コロナウイルス、MERS、およびSARSウイルスを含むコロナウイルスに対する抗ウイルス剤として実用的な特徴を備えています。ウイルスには、体の一番外側を脂質に富むエンベロープと呼ぶ膜が覆っているタイプと、エンベロープのないタイプの2種類があります。コロナウイルスは前者のタイプに属します。エンベロープはオゾンなどの酸化・消毒剤に対して弱い性質を持つため、オゾン処理により感染力を低下させやすい性質があります。

COVID-19の急性感染期は、血液およびリンパ中で爆発的なウイルス増殖(サイトカインストームと呼ぶ)が起き、ウイルス血症に陥るのが特徴です。ウイルス血症は全身の臓器に深刻なダメージを与え、患者は重篤な状態になります。酸素/オゾンガスを血液中に取り込ませる治療法は、COVID-19の急性期にウイルスを淘汰してウイルス血症に対抗できる可能性があります。ただ残念ながら、オゾンの臨床使用に関する科学的証拠がまだ十分とは言えないため、オゾン療法の効果はまだ完全には理解されておらず、臨床場面に受け入れられていません。

1950年代以降に開発された体外膜酸素化(ECMO)として知られる技術は、ガス交換膜などのシステムをオゾン耐性にすることで、オゾンの追加投与ができるようにアップグレードできます。適切に調整された追加のオゾン投与量は、COVID-19患者が健康な血中酸素/二酸化炭素バランスを維持するだけでなく、COVID-19ウイルスの除去に効果を発揮できる可能性を持っています。

ここでは、オゾンの新型コロナウイルスに対する作用を紹介する2つの最新の論文を取り上げ、新型コロナウイルスの特徴とオゾンがなぜこのウイルス除去に有効なのかを述べた上で、オゾンを使ったCOVID-19治療法について検討したものです。また、記事の最後に、スペインで始められたオゾンを使ったCOVID-19治療についても簡単に紹介しておきます。

新型コロナウイルスとはどんなもの

COVID-19とSARS-CoV-2とは

今、世界的なパンデミックを引き起こしている新型コロナウイルスですが、新型と言われるだけあって、新型とか旧型とかの違いがあるのでしょうか、あるいはインフルエンザA型、B型、C型のようにもっと細かく分かれているのでしょうか。

はい、まず、コロナウイルスには新型と旧型があります。ただ、旧型とは言いませんが。コロナウイルスには、かつて流行したSARSやMERSウイルスが含まれます。新型コロナウイルスは、似ているもののこれらのウイルスとは少し違うため、新型という名前が付けられたのです。新型も旧型も大きく見ると「コロナウイルス科」という一つのウイルスのグループに入ります。

人、一人ひとりに氏名があるように、ウイルスにも名前があります。新型コロナウイルスというのはいわゆる愛称のようなもので、正式にはSARS-CoV-2と呼びます(2020年2月11日、国際ウイルス分類委員会が命名)。サーズコロナウイルスの正式名称はSARS-CoVですので、これは、新型コロナウイルスがSARSウイルスに近いことを表していて、「第二番目のサーズコロナウイルス」という意味です。一方、WHOでは、2月11日に、新型コロナウイルスによって引き起こされる疾患(新型コロナウイルス感染症)のことをCOVID-19(Coronavirus disease 2019)と命名しました。

ウイルスの細かい分類は遺伝子解析で行われます。新型コロナウイルスの遺伝子(RNA)の完全なゲノム配列は1月11日に公開されました。それによれば、このウイルスは、他のコロナウイルスと比較した場合、中国の浙江省のコウモリのSARSウイルスに一番近く、ヒトのSARSウイルスとも80%近い類似性があるとされています。それに比して、風邪の4種類のコロナウイルスとはかなり違っています。

このように、SARSウイルスと新型コロナウイルスの遺伝子の構造が他のコロナウイルスとは違っているために、SARS-CoVとかSARS-CoV-2というウイルスの正式名称が付けられたのです。ちなみにMERSウイルスにはMERS-CoVという名前が付いています。

1960年代に初めて発見されたコロナウイルスは、遺伝物質にRNAを持つRNAウイルスの仲間です。RNAとは、DNAと同じ遺伝物質ですが、その構成単位が少し違うこと、DNAが2重らせん構造なのに対してRNAは1本鎖でできています。コロナウイルスのサイズは、50-200nm(1/1000mm)と極めて小さくて、もちろん肉眼で見ることはできません。電子顕微鏡で観察すると、体の表面からタンパク質でできたコロナ状のスパイクと呼ぶ突起物が飛び出ているのが特徴的です。

コロナウイルスには多くの種類がありますが、ヒトに感染するのは7種類だけです。そのうち、いわゆるかぜのウイルスとして、ヒトコロナウイルス229E、OC43、NL63、HKU-1の4種類があり、残りの3種類は重篤な症状をもたらす、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルス、MERS(中東呼吸器症候群)ウイルス、そして今回のSARS-CoV-2です。

自然界で広く見られるコロナウイルスは、さまざまな動物の宿主に感染し、鳥類の感染性気管支炎、マウスの肝炎、ブタの胃腸炎などの原因となります。なお、コロナウイルスは動物からヒトにも感染します。

新型コロナウイルスには種類がある

COVID-19患者の遺伝子を詳しく調べると、遺伝子に細かい違いがあることが分かってきています。その中でも、L型とS型という2種類のタイプに大別できるという報告があります。このうちL型は、1月7日以前に中国・武漢の患者から分離されたウイルスの約96%を占めるのに対して、S型は1月7日以後に武漢以外の場所の患者から約38%の割合で分離されたとされています。このことから,L型はS型よりも強いものではないかとの報告もあります。ただ、L型とS型の違いは非常に軽微であり、未だ、はっきりとしたことは分かっていません。

ウイルス粒子の構造

同じような感染症を引き起こす微生物の中に細菌とウイルスという大きな違いがあります。その違いは何なのでしょうか?

まず細菌は、1個の細胞からできている単細胞生物です。細菌には、病気を引き起こす病原性細菌もいれば、乳酸菌や納豆菌のように役に立つ細菌もいます。病原性細菌を退治するには抗菌薬(抗生物質)が効果的です。

それに対してウイルスは、細菌の約1/50ほどの大きさしかなく、自分自身の細胞も持っていません。従って、歩かの生物の細胞の中に入り込んで寄生生活をします。ウイルスの中には病気を引き起こす多くの種類がいて、細菌のように抗菌薬が効きません。

新型コロナウイルスは、ウイルス複製用のソフトウェアとしての核酸コア(一本鎖RNA)と核酸コート、およびハードウエアとしてのエンベロープとスパイクからできています。エンベロープは、ウイルス本体の外側を覆う外皮の様な膜です。

エンベロープを持つエンベロープウイルスには、新型コロナウイルスを始めとして、インフルエンザウイルス、B型・C型肝炎ウイルス、風疹ウイルスなどがあります。一方、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどは、体の表面にエンベロープのないノンエンベロープウイルスです。

エンベロープがアルコールに弱いことから、このグループのウイルス除菌にはアルコールが有効ですが、後者はアルコールに強いため、除菌にアルコールは有効ではありません。

新型コロナウイルスの感染のしかた

では、新型コロナウイルスは、どんなしくみで人から人に感染するのでしょうか?

例えば、電車の中でウイルスの付いた吊革に触っただけで感染するのでしょうか。感染するには、ウイルスが体の表面から体内に入る必要があります。ウイルスは、手の表面からは中には入れず、汚染された手で目や口、鼻を触って初めてそこから体内に入り込みます。しかし、鼻の粘膜で留まっていれば感染してもすぐに取り除けます。感染症になるのは、ウイルスが大好きな肺や腸まで到達して、そこにある細胞の中にまで入り込んだ時です。

一体、どうやって入り込むのでしょうか?

まず最初に、SARSウイルスや新型コロナウイルスにある、あの棘の様なスパイクが、細胞表面にある受容体と呼ぶタンパク質を見つけ、鍵が鍵穴に入るようにしてこの細胞に結合します。この部分から、ウイルス本体であるRNAが細胞内に注入されて宿主を乗っ取ってしまうのです。これが感染です。

一度感染に成功すると乗っ取り犯は、自分と同じRNAを大量に放出して、爆発的に増えていきます。これを自己複製といいます。自己複製されたウイルスは、肺から血液とリンパ液から体内に拡散されて新しい細胞、他の臓器系、そして最終的には体外に放出されて、人から人への感染を引き起こしていきます。なお、コロナウイルスが結合する受容体は人の肺と腸に多く存在していますが、特に外界から到達しやすい肺の受容体に結合します。そのため、このウイルスは肺で増えて、肺炎などの症状が引き起こされるのです。

次に、コロナウイルスはどの位のスピードで増える(増殖率)のでしょうか?

例えばインフルエンザウイルスは,感染して6時間で108個/mL程度のウイルス量に達する程、急激に増殖します。コロナウイルスは,6時間で105〜6個/mL程度のウイルス量まで増殖するとされています。したがって,コロナウイルスの増殖力はインフルエンザの約100分の1程度であり、インフルエンザよりも人から人には感染しにくいと言えます。

オゾン:物理的および生理学的特性

酸素原子は、O、 O2、O3、 O4などいくつかの形で自然界に存在します。代謝の過程で通常生成される酸素原子(O)は、非常に反応性が高く不安定です。最も安定な状態として存在する酸素分子(O2)は、地球の地殻の半分近くを占める元素ですが、地球外にも多く存在します。

オゾン層で有名なオゾンとは、酸素原子が3つ結合したもの(O3)です。オゾンは極めて不安定なガスで、空気中では速やかに分解して、酸素原子(O)と安定な酸素分子(O2)に変化します。オゾンが分解した時に生じる酸素原子には強い酸化力があり、臭い成分などの他の物質と反応して安定化し、臭い自体を消滅させることができます。また、脱臭以外に、水や空気の浄化、殺菌、脱色、有機物除去など幅広い分野で用いられています。

オゾンはオゾン発生器で容易に発生でき、抗菌・抗ウイルス効果を示し、すばやく空気中の酸素に戻ることができるため、除菌と消毒ができる地球にやさしい抗菌物質として注目されています。オゾンが水に溶け込んだものをオゾン水と言い、こちらも消毒用・除菌用に使われています。

強力な酸化剤であるオゾンには、独特の生物学的特性があります。その性質を利用して、オゾンは歯科、眼科、皮膚科を始めとして医療分野でも活躍しています。また、血液にオゾンを含ませて治療するオゾン療法(血液クレンジング療法)も古くから行われています。オゾンは、血液中の酵素、免疫グロブリン、凝固因子、ホルモン、ビタミン、リポタンパク質、コレステロール、炭水化物、電解質などの血清タンパク質と反応します。このような血液に対するオゾン処理の影響は非常に複雑であり、まだ、十分に解明されていません。

オゾンは、実験室内では赤血球溶血作用を示しますが、低用量のオゾン投与が赤血球の形成と放出を刺激する可能性に言及した研究もあります。また、赤血球酵素の機能は維持されていて、血液の抗酸化システムを保護する役割を示しています。

一方、白血球は免疫機能と密接に関連しているため、抗酸化酵素を持ち、オゾンに対する優れた耐性を示します。オゾン投与の結果、生理活性物質であるサイトカインと抗ウイルス作用を持つインターフェロンの刺激が起きて免疫機能が高められたとの報告が多くあります。ただし、高濃度のオゾン投与は、逆に免疫機能抑制に働くともされています。

オゾンの細菌やウイルスに対する作用

オゾンの抗病原性

最近、オゾンの病原菌に対する不活化作用に新たな関心が寄せられています。オゾンが、水中の細菌、ウイルス、真菌、および寄生虫の生存率に対して効果的に作用するというのです。

オゾンによる影響を受けて不活化しやすい微生物には、好気性細菌と嫌気性細菌、バクテリア、カンピロバクター、クロストリジウム、コリネバクテリア、エシェリヒア、クレブシエラ、レジオネラ、マイコバクテリア、プロプリオバクテリア、シュードモナス、赤痢菌、ブドウ球菌、連鎖球菌、エルシニアなどがあります。

このオゾンの特徴を利用して、臨床場面でオゾンは、細菌感染を起こして治癒が不十分な創傷や火傷の治療に良く使われます。

またオゾンは、抗ウイルス作用も持ち合わせています。オゾン感受性ウイルス(オゾンの作用を受けて滅菌されやすいウイルス)には、アデノウイルス、フィリウイルス、ヘプナウイルス、ヘルペスウイルス、オルソミクソウイルス、ピコルナウイルス、レオウイルス、レトロウイルス、およびコロナウイルスが含まれます。

さらにオゾンは、真菌類(いわゆるカビ類)駆除にも効果的です。オゾン感受性真菌(オゾンの力にかなわないタイプのカビ類)には、とりわけ、放線菌、アスペルギルス、カンジダ、クリプトコッカス、表皮植物、ヒストプラズマ、微胞子、および白癬菌があります。

オゾンは他のウイルスよりもコロナウイルスに強く反応する

さて、一部のウイルスは、他のウイルスよりもオゾンの影響を受けやすいことが知られています。どんなウイルスなのでしょうか?それは脂質エンベロープウイルスという種類です。

エンベロープウイルスは、エンベロープと脂質のコートをまとって宿主の細胞膜にぴったり貼りつき、溶け込み、宿主細胞中にウイルス本体を流し込みます。これが感染です。

オゾンの抗ウイルス作用のしくみ

抗菌薬という強い薬でも退治できないウイルスですが、オゾンは、どんな仕組みで攻撃することができるのでしょうか?

オゾンは、ウイルスタンパク質、リポタンパク質、脂質、糖脂質、糖タンパク質を、強い酸化力を使って攻撃します。これらの分子の構造中には、多数の二重結合や三重化学結合(炭素同士や炭素と酸素、炭素と窒素などの結合)などが存在します。オゾンは、これらの結合部位に反応しやすく、急速な酸化反応を起こます。この作用によって結合が断ち切れて2つの化合物に分解します。

つまり、このような分子の結合部分はオゾンの酸化作用に対して脆弱であり、この部分からウイルスの分子構造が破壊され、エンベロープの破損が引き起こされます。エンベロープを奪われたウイルスは、自分自身を維持したり複製したりすることはできなくなり、不活化してしまいます。

また、オゾンとオゾンが生成する過酸化物化合物は、エンベロープを完全に破壊しないまでも、宿主細胞への付着に必要なエンベロープの構造を変える可能性があります。例えば、宿主細胞受容体に接続するウイルス糖タンパク質の突起にオゾンが作用すると、リポタンパク質の過酸化が起こって構造が一部変化します。それだけで、ウイルスの宿主の細胞膜への付着能力が損なわれ、ウイルスの付着と浸透を阻害する可能性があります。つまり、ウイルスを殺さないで、その感染力を無くしてしまうというわけです。

もう一つ。コロナウイルスのエンベロープにはシステインというアミノ酸が含まれ、このアミノ酸に傷が付くと、うまく宿主細胞に融合できなくなります。オゾンはこのシステインの構造を酸化によって破壊する力があります。その結果、ウイルスが機能不全に陥るという、ユニークな治療効果が期待できます。

オゾンのこの力は体内ではどのように発揮されるのか、考えてみます。

オゾンは水に溶解しやすい気体で、体液に溶解するとすぐに反応します。全血の血清部分(赤血球や白血球以外の血液中の液状部分)にオゾンを反応させると、血清中の脂質およびタンパク質の過酸化物の形成を引き起こします。これらの過酸化物は、数時間にわたって酸化能力を保持して、ウイルスの殺菌に役立ちます。

もう少し具体的に述べると、オゾンは、感染した血液中を循環するウイルス粒子を機能不全に陥らせることができると考えられます。それは、構造全体としては無傷のように見えて、ウイルス体内でゲノムの一部を改変させ、実際には病原性を失わせるようなやり方です。このような弱体化したウイルスに対しては、宿主の免疫系が攻撃を仕掛けることも可能になります。つまり、外から投与されたオゾンが、体が自分自身で持つ抗原抗体反応の力(有効性)を高める可能性があります。

オゾン治療の実際

オゾン治療にはどんなものがあるか

このように、オゾンは実際の臨床場面で利用できる可能性があります。以下、オゾンの臨床での利用に関して具体的な例をいくつか紹介します。

その中でも最も有望なのは、治癒が難しく、非常に頻繁に四肢の切断を引き起こすことで有名な糖尿病および血管性皮膚潰瘍を解消するために外部から適用される酸素/オゾンガス混合物です。

次に、オゾン自己血液療法(AHT、オゾンクレンジング療法)というものがあります。この治療法では、ウイルスに感染した患者から一定量の血液(50〜500 ml)を採取し、抗凝固処理して、調整済みのオゾン/酸素混合液と接触させた後、再注入します。このプロセスは、ウイルス量の減少と症状の軽減が観察されるまで連続的に繰り返されます。ただし、血液中、とくに血液クレンジング療法を行う際の全血中では、オゾンの殺菌作用はその成分のスペクトルによって緩衝され、オゾンの効果は低くなります。

実際のオゾン療法の臨床試験での効果については、数か月のオゾン療法後のC型肝炎患者の肝酵素の改善や自己血液療法による82人の患者での80%のC型肝炎ウイルス量減少の報告があります。

また、エボラ出血熱の5人の患者をオゾンで治療し、10日の治療後に全員が治癒したという報告もあります。COVID-19と同様に、エボラウイルスもサイトカインストーム(免疫系の暴走による、免疫細胞による多臓器の損傷)を引き起こします。それを、オゾンの持つ免疫力調節作用によって打ち消すことができるというのです。

ただし、B型およびC型肝炎、HIV、ヘルペスなどのウイルス性疾患に対するオゾンを使った臨床試験は、これまでに十分な二重盲検研究が行われてきていないという限界もあります。
二重盲検研究:治験者を、オゾンを使用する群と、オゾンを使用しない群の2群に分け、それぞれの群の治験者には、オゾン使用の有無を知らせないで行う治験。

AHTにより、呼吸器、心臓、腎臓の機能をサポートすることに加えて、重要臓器や虚血領域の酸素化が改善されたとの報告もあります。

COVID-19治療へのオゾンの利用

このように数は少ないとはいえ、ウイルスに対するオゾン療法の臨床での効果が報告されていますが、オゾン療法をCOVID-19治療に応用できないものでしょうか?

平均的な成人の血液は4〜6リットルあり、体重の約7%を占めます。連続的ではありますが、AHTのような100-200mlといった少量の血液量に対して処置を行う技術で本当にウイルス量を減らすことができるのでしょうか?このような疑問がある一方で、
透析の場合を例にして、血液とリンパ液の全量に対する処置よりも、AHTのような連続的な処置の方が、COVID-19への対応においてより効率的なのではないかとする意見もあります。AHT でのオゾン処置のメカニズムに関しては未知数ですが、感染した血液に対するオゾンのウイルス淘汰効果には、オゾンによるさまざまな波及効果を含めた複雑な仕組みを考慮する必要があるあると考えられます。この観点からのオゾンの抗ウイルス作用を説明するための基礎的な研究が必要となっています。

COVID-19の急性感染期は、血液およびリンパでのウイルスの爆発的な増殖(サイトカインストーム)が特徴的です。これによって引き起こされるウイルス血症は、急激な体調悪化につながり、深刻な問題になっています。全身投与された酸素/オゾンのガスと血液のインターフェース戦略を介して、COVID-19の急性期中でのウイルス淘汰のための一つの有望な手段と言えるのではないでしょうか。

COVID-19の急性感染期における、酸素/オゾンガス投与のもう1つのより実験的でより集中的な手法は、体外血液酸素化オゾン処理(EBOO)と呼ばれるものです。
新型コロナウイルス感染症患者では、肺から吸収される酸素量の不足から組織に酸素が十分に行き渡らない低酸素症が大きな問題になります。オゾンには、組織の酸素化の改善を促す作用があり、この点でもオゾン療法には大きな効果が期待できます。

EBOOとは、現在、重症患者に適用されている人工肺(ECMO)にオゾンを導入する方法で、ガス交換膜などのシステムをオゾン耐性にすることで、酸素に加えてオゾンを導入できるようにアップグレードしたシステムを利用します。
これにより、追加のオゾンの投与が可能となり、COVID-19患者の血中酸素/二酸化炭素のバランス維持の補助ができるだけでなく、コロナCOVID-19ウイルスの除去の補助にもなる可能性があります。

一方、幸いなことに、オゾン療法で用いられるオゾン量はとても少なく、人体に副作用は起こしません。オゾンの生体内投与の安全性についてはWellsらの報告があります。

最後に、実際にオゾンを使ってCOVID-19治療を行ったスペインとイタリアなどでの実例を紹介します。

スペインでのCOVID-19に対するオゾン療法の成果

スペインのイビサ島のヌエストラセニョーラデルロサリオポリクリニカでは、オゾンを使ったCOVID-19患者の治療例を4月8日に公表しました。

記事によると、この病院では、スペインで初めてオゾン技術を使用してCOVID-19患者を治療し、成功を収めたということです。その結果についてクリニックは、プレスリリースを通じて、「挿管されて人工呼吸器に接続されようとしていた多くの患者は、オゾン療法のおかげで、挿管治療を回避しただけでなく、数回の治療セッションで酸素を必要としないほどにまで回復した」とのコメントを寄せています。

また、スペインオゾン療法学会の会長であり、世界オゾン療法連盟の副会長であるJose Baeza博士は、「効果的な治療法やワクチンが開発されておらず、緊急事態に直面している現在、すべての入院患者は、明らかな利点があり、重大な副作用がないオゾン療法を受けるべきです」と主張しています。

4月4日、オゾン療法は、ポリクリニックで、COVID-19感染症センターの専門家グループの承認を受けて、スペインで最初の使用が承認されました。

最初の患者
ICUへの入院を必要としていた49歳の男性が最初のオゾン療法対象者です。この患者は最高濃度の酸素吸入でも肺に十分な酸素供給ができず、挿管と人工呼吸器への接続が計画されていました。驚くべきことに、オゾン療法の最初のセッションの後、著しい回復を見せ、酸素の必要量を減らすことができました。

この患者についてAlberto Hernandez博士は次のように説明しています。「、オゾン療法の最初のセッション後の改善は素晴らしいもので、驚かされました。呼吸数は正常化し、酸素レベルは増加し、患者自身で酸素呼吸が可能となって酸素吸入の必要もなくなったのです。驚いたことに、この疾患の予後マーカーであるフェリチンが、大幅に減少が確認されました。

臨床医は、「オゾン療法は、組織レベルでの酸素化を改善するという利点があり、したがって患者が被る炎症反応を軽減する可能性がある」としています。

この結果を踏まえて、Hernandez博士とポリクリニックグループの最高経営責任者であるFrancisco Vilas氏は、「この不幸なパンデミックに貢献できるよう、私たちの助けを必要としている病院を支援します。私たちは、人的および技術的リソースとオゾン療法の経験を提供できるような準備ができています」と述べています。

スペイン以外でもイタリアと中国でオゾン療法の治験が行われています。例えば、イタリア、ウディネのサンタマリアデッラミセリコルディア大学病院で、呼吸不全のCOVID-19肺炎患者36人にオゾン療法が施されました。その結果、通常15%が必要とする挿管治療患者の割合が、オゾン治療の後には3%に低下しました。中国でも4件の臨床試験が進行中です。

COVID-19、MERS、SARS、およびオゾン:研究の未来

COVID-19、MERS、およびSARSは、現代の人間集団の免疫防御を破ることに成功した新しく進化したコロナウイルスによって引き起こされる脅威です。

細菌感染であってもウイルス感染であっても、感染症を克服するための普遍的な戦略は、病原性有機体を体から淘汰して、侵襲性および複製性の脅威を表さなくなるまでにすることです。我々の体の中の遺伝子には、過去に人類を襲った多くの病原菌の情報がインプットされています。この情報に基づいて、免疫機構が侵入してきた敵に対して一定程度までは防御することが可能になっているのです。

COVID-19、SARS、およびMERSは、急性で急速に進行する呼吸器系から始まって全身に及ぶ炎症性感染症であり、高い罹病率と死亡率をもたらします。呼吸器系の破壊による血液ガスバランスの急速な変調が呼吸の停止にまで至ることがあるのです。

COVID-19、MERS、およびSARSは、症状が激烈に進行し、推定100億個のウイルス粒子が毎日排出されるため、緊急で強力なウイルス淘汰の必要があります。これに対する効果的な処方は、現在のところ存在しません。

全身投与された酸素/オゾン混合物が、ウイルスの緊急淘汰に効果を発揮できるのでしょうか?この答えを得るためにも、今こそ、オゾンの抗新型コロナウイルス作用を確認するための治験が必要です。

まとめと結論

COVID-19はSARSウイルスに近いコロナウイルスの種類によって引き起こされる急性炎症性症候群です。このウイルスは、RNAゲノムを司令塔にした脂質からなるエンベロープを持っています。
COVID-19は高い突然変異性を持って人に感染するため、感染した1人1人ごとに、感染性と致死性がわずかに異なる多種類のコロナウイルスが出現することになります。

オゾンは、COVID-19を始め、MERSやSARSの全身療法において、単剤療法として、または、より現実的には標準的な治療法に対する補助剤として利用可能です。地球の生態圏のどこにでも存在するオゾンは、驚くべきことに、正常に免疫機能によって作り出され、体内に侵入してきた多数の病原体の不活性化因子として働きます。

これら2つの論文は、オゾンの抗ウイルス作用のメカニズムを概説しています。多くの文献で証明されているように、オゾンがコロナウイルス全体にわたって有効性を示すことは疑いの余地がありません。

オゾンはユニークな消毒特性を持っています。気体として、液体にはない浸透能力があります。新型コロナウイルス、MERSおよびSARSウイルスが数日間環境中に生存できるという事実を考慮すると、オゾン技術を医療環境やその他の環境の除染に適用することが推奨されます。

私たちの世界がウイルスの敵にますます挑戦されるようになると、各ウイルス種に適応した特定のワクチンを迅速に開発する必要性がもとめられます。その一方で、ワクチン開発と並行して、病原性ウイルスを殺す新しい薬の開発を集中して研究することも必要です。コロナウイルスは、オゾンによる構造変化の影響を受けやすい脂質エンベロープを持っているため、その一つの候補として考えられます。

結論として、これまで行われてこなかった酸素/オゾン全身療法を、COVID-19治療の一つの手段として研究課題に含めるべきであると考えます。今後のCOVID-19に対するオゾンでの治療の展開のためにも、現在、極めて限定的にしか行われていないオゾン療法の大規模かつ徹底的な治験がぜひとも必要です。オゾン療法は特に重症患者に有効である可能性があり、COVID-19によって失われる命を少しでも減らすことに貢献することが期待されます。オゾンを用いた治療アプローチは、特定のコロナウイルスに対してだけでなく、多くのヒト脂質エンベロープウイルスの病原性感染にも有用です。

今後、新型コロナウイルスの流行が再び起きることが確実視されています。さらに将来に渡って、人類はこのウイルスと向き合っていかなくてはなりません。新型コロナウイルスに対抗できる可能性のあるオゾンの力を、今のうちに確認しておくことが急務なのではないでしょうか。

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