オゾンの活用

 地球環境保護への関心が一段と高まるなか、さらに注目されるきっかけが2020年にありました。新型のコロナウイルス「SARS-CoV2」です。オゾンはもともとその強い酸化力を生かして殺菌や消毒、脱色などができますがら反応後に発生するのは無害な酸素のみです。そうです。オゾンは、塩素系薬剤などとは異なり「残留性」がありません。コロナ禍でオゾン活用の技術開発も進み、市場は一段と拡大する見通しです。

 オゾンは大気中に存在し、酸素原子(O)が3つ結合した状態の気体分子です。1840年にドイツ人化学者であるシェーンバインが新物質としてギリシャ語の「臭う(におう」を意味する「Ozein」にちなんで命名されました。太陽の有害な紫外線から私たちを守る働きをしているオゾン層が知られていますが、実は身近な物質で、オフィスの大型コピー機や冷蔵庫の稼働時に発生するあの独特な臭いがオゾンです。

 高濃度のオゾンは人体に有害ですが、低濃度(0.1ppm以下)であれば問題ありません。また日本産業衛生学会による作業環境基準濃度は「0.1ppm以下」ですが、これはあくまでも有人環境下(人がいる状態)における安全濃度を示すものであり、無人環境の殺菌・消毒作業においては1.0ppm超で行われるのが一般的です。

 オゾンは不安定な状態の分子なので短時間で反応して酸素に戻ります。この作用の過程で放出される酸素原子があらゆる物質と結合しようとします。その結合こそが酸化であり、臭いの成分に対しては消臭や脱臭、細菌やカビに対しては除菌や殺菌、ウイルスに対しては不活化(感染できない状態にすること)となります。

 オゾンは空気中の酸素に放電することで、人工的につくれるため、活用の歴史は古くからあります。欧州、とりわけフランスは「オゾン先進国」と呼ばれており、100年以上前から浄水場で飲料水の除菌にオゾンが使われてきました。日本でも、1990年代以降、東京都や大阪府などが浄水処理の過程で、オゾンと粒状活性炭を活用した高度浄水処理の導入を進め、おいしく、そして、安心・安全な水を提供しています。

 2020年のコロナ禍において、オゾン発生器の導入が驚くべきスピードで広がっているのがホテルや旅館等の宿泊施設、飲食店、病院などです。もともと宿泊施設では脱臭目的でオゾン発生器を導入する施設が多かったのですが、コロナ禍において「新型コロナウイルスの不活化」という感染予防対策の一環として、過去に例を見ないほど需要が高まっています。

 オゾンを溶け込ませたオゾン水の利用も洗浄や殺菌用途などで進んでいます。オゾンはウイルスや細菌に直接反応し、破壊や分解を行うので、耐性菌をつくらず、また有害物質の残留がないことからすすぎ洗いは不要です。オゾン自体は、厚生労働省が定める食品添加物としても認められているほど安全性が高いのです。オゾン水は特に食品工場や病院(特に歯科医院)、介護施設などで活用が広がっています。

 米国の調査会社BCCリサーチによると、オゾン生成技術に関連した世界市場規模は2016年が前の年に比べて7.1%増の8億4140万ドルでした。その内訳は飲料水・排水など水処理に関するものが全体の75%強を占め、大気・ガス処理が24.4%、医療が0.3%となっています。2018年頃、同社では同市場の16年から21年までの5年間の年平均成長率を7.1%と予測し、2021年には11億8590万ドルに達するとみていましたが、奇しくも2020年のコロナ禍においてオゾン需要が急激に高まり、同社の予測は外れ、結果的にその予測を大きく上回ることになりました。

日本の応用技術は海外で高い評価を得ている

 小型のオゾン発生器の開発をはじめ、オゾンにかかわる先進的な技術は日本で生まれており、日本のオゾン応用技術は海外で高い評価を得ています。

 例えば、ジーンズの生地を傷めずに着古した風合いを出すオゾン加工や、塩素を使わずにタオルなどの繊維を漂白するオゾン漂白は日本で開発された技術です。

 そして今、世界的にも注目を集めているのが、オゾンを活用した新型コロナウイルスをはじめとする「来たる新型ウイルス」などに対する感染症対策です。コロナ禍において、2020年5月に奈良県立医科大学による実験で世界初「オゾンが新型コロナウイルスを不活化」というニュースが飛び込んできました。これによって、オゾン発生器を製造する日本のメーカーは高まるオゾン需要に緊急的に対応しなければならない事態となりました。新型コロナウイルスが原因で、日本国内のオゾン発生器需要は10倍程度に伸びたというから驚くほかありません。日本メーカーによって製造される日本のオゾン発生器は、海外のそれと比較しても、品質が高く、コロナ禍の今、言葉のとおり「飛ぶように売れている」そうです。

オゾン発生器の新たな規格認定の準備段階へ

 オゾンは塩素より強い酸化力ゆえに装置自体も酸化されるため、オゾン発生器には酸化耐久性が求められる。高濃度のオゾンは人体に影響を与えるので、濃度のコントロール、管理も欠かせません。そこでオゾン安全管理士制度やオゾン発生器の規格認定を行なっているNPO法人日本オゾン協会では現在オゾン発生器について、新たな規格認定の準備を進めています。

 持続可能な開発目標として国際連合がSDGsを採択するなど、世界は地球環境を重視する潮流のなかにあります。環境負荷が少なく、優れた殺菌・消毒力や消臭・脱臭力を持つオゾンの活用はこの流れに沿いますりオゾンが持つ可能性を正しく理解し、的確に利用すれば、新型コロナウイルスに限らず感染症拡大防止に役立ち、日本の公衆衛生に貢献すると確信しています。