危険を感じる人間の高感度センサー「鼻」

危険を感じる人間の高感度センサー「鼻」

 オゾンが直接人体に及ぼすと思われる影響を示します。ここではオゾン濃度をppmで示しました。また、「ppm」は百万分の1を意味しています。測定されたオゾンの濃度によって表示単位は異なりますが、私たちが実際に問題にしている比較的オゾン濃度の低い範囲ではppmを使うことが圧倒的に多いです。ppmは、体積の割合で表す場合と重量の割合で表す場合がありますが、ppm濃度の値は容量の割合と個数の割合とが同じになるので、多くの場合濃度の表示は個数の割合で示していると考えてよいでしょう。

 一般的に私たちを取り巻いている空気中のオゾン濃度は0.005ppm程度であることをご存知でしょうか。私たちがオゾンを生臭い(感じ方は個人差あり)と感じる濃度は0.01から0.02ppmであり、私たちにこれだけの感度があると言うことは極めて重要なことであるといえます。実際に人体に悪影響が出始めるのは0.2から0.5ppmかつそのオゾン濃度に長時間滞在(2時間以上など)した場合であり、オゾン濃度がこれ以上高くなったり、滞在時間が長時間になったりすることで、人体に対する影響は大きなものになってきます。しかし、短時間で生命の危険領域になるのは私たちが鼻という高感度センサーで感じることができるオゾン濃度の1000倍以上のレベルにあることを忘れてはなりません。逆に、人体に影響を及ぼす最低限界のオゾン濃度の10分の1の低濃度でも検出できる自分の鼻という高感度センサーを持っていることは「過ぎたるは…」とならないための有効な防御だと言えるのです。

 とはいえ、オゾンが全く心配ないわけではない私たちの鼻の感度はオゾン濃度0.01から0.02ppmですが、この範囲のオゾン濃度環境下にしばらくいると鼻の感度が低下し、オゾン臭を感じなくなってしまうことがあります。この状況は、オゾンの生成や処理を手がけたことのある人であれば幾度となく経験していることでしょう。オゾン臭のする部屋に入るやいなやオゾンの存在を感じ取っても、しばらくするとオゾンがなくなったのではないかと錯覚することが少なくありません。したがって、オゾン濃度0.01から0.02ppmと言うのは鼻の初感だと言ったほうが正確な表現だと言えます。コロナ禍において、「50ppmのオゾン濃度で人は死ぬこともある!」と主張するオゾンの特性をよく理解しない人たちを散見しますが、50ppmのオゾン濃度環境とは、その中に私たちが強制的に閉じ込められない限りこのような高いオゾン濃度環境下に長時間滞在することはあり得ないことなのです。したがって放射線の場合と違い私たちが知らない間に50ppmといった致死量のオゾンにさらされるようなほぼ確実にありません。しかしよく睡眠中にガス漏れによる中毒死があるように自意識のない状態で高濃度オゾンにさらされるようなことを想定するなら安心はできません。オゾンの人体への影響からオゾンの各種作業環境における許容オゾン濃度は0.1ppmに定められています。このオゾン濃度は日本やアメリカ、その他の世界各国もほぼ同じです。もちろんオゾン処理装置を設置した場合でもその排気ガスを0.1ppm以下にして排出するよう定めているのは当然のことだと言えます。

オゾンは両刃の剣?

 オゾンの人体への直接的な影響を考えてみましょう。オゾンは体内に空気と同時に吸入されるので呼吸器への障害が主なものと考えられます。酸素と一緒に酸化力の強いオゾンが体内に吸収されると鼻から器官を経て、肺に至るまでのオゾンが通るすべての粘膜を酸化し、それぞれの機能を低下減退させ、停止に至らしめます。

 その結果、麻痺や肺水腫の症状が現れます。また視力が低下する症状も網膜の酸化によってもたらされます。オゾンの影響によって人体に現れる症状は同じ酸素ではあるが酸素分子とオゾンの酸化力の強さの差によってもたらされるというわけです。オゾンはここに述べたように、人体に害を及ぼす側面があるがその反面、オゾン利用の有効性は数多く実証されてきています。(奈良県立医科大学のオゾン不活化実験なども良い例だと言えます)
中でも、医療用にオゾンが有効であると言う症例は年々増加傾向にあります。しかしこれらの症例とは裏腹にオゾン量の最適値は明瞭になってはいません。オゾンの供給量によってオゾンは毒にも薬にもなるということを忘れないようにしましょう。(オゾンに限らず物質の安全性や危険性は量によって決まります)

爆発の危険

 ところでオゾンが爆発する事はあるのでしょうか。
オゾンは極めて酸化力が強いことからガス分子と爆発的に反応を起こすことがあります。しかし爆発とゆっくりとした酸化反応をはっきりと区別することはかなり困難です。ちなみに、酸素とオゾンの混合比の分解速度をオゾンの混合比が20%程度までは極めて分解速度が遅いです。しかし、オゾンの混合比が50%以上となれば分解速度が極めて早くなり短時間のうちに分解反応が完了してしまいます。この反応速度の高い領域が爆発領域です。

 このことはオゾン濃度が高くなると、爆発の危険性が出てくるということを示しています。また反応速度は混合するガスの種類によっても異なり、光の照射や温度上昇によって加速されるので環境には注意が必要となります。爆発に関するオゾンとガスの混合比の関係は、水素が爆発するときの水素と酸素の混合比と類似しています。水素と酸素を2対1の割合で混合したものは、比により一瞬のうちに燃焼します。これが爆発です。しかし4%以下および75%以上に酸素を混合したものは点火しても爆発が起こらないという事実があります。この条件では少しずつ酸化されることになります。オゾンは危険なガスであると思われがちではありますが、水素と同様その性質を知ってきちんと使用すれば極めて安全で有益な物質であることがわかります。

 実際にオゾンを生成する場において、オゾン濃度が45%以上に達するような状況はほとんどありません。しかし、液体窒素レベルの極低温領域でオゾンを生成させる場合や水分解放でオゾンを生成する場合には、小規模であっても急激な温度変化によって膨張し、これ以上の高濃度のオゾンが生成される可能性があるので注意が必要にります。

院内感染から身を守るためのオゾン

院内感染から身を守るためのオゾン

 新型コロナウイルスによる院内感染が世間を騒がせているようなので、今回は「菌を酸化して殺す(殺菌)」「ウイルス不活化」について書いてみたいと思います。2020年に入ってからというもの、中国を震源地とする新型コロナウイルスで世界中がパニックに陥っています。その新型コロナウイルス騒動が原因で、以前より殺菌や不活化と言う言葉がよく使われるようになってきたように感じます。特に、新型コロナウイルスによる院内感染が注目され、メディアは連日そのことを報道しています。院内感染が問題視されるのは、免疫機能の低下した患者や医療体制圧迫によるストレス過多の医療従事者たちにとって新型コロナウイルスに感染することが致命的になる厄介なウイルスだからです。

 この防止対策として手洗いが短時間で殺菌できる有効な方法であることは政府、厚生労働省、数多くの医療従事者たちが呼びかけてきました。なかでも、藤田医科大学付属病院がオゾンを利用した殺菌消毒を行っていることは話題になりました。

オゾン発生機にて消毒を実施、その後に次亜塩素酸による清拭を行い、最後にUV照射を行っております。
藤田医科大学附属病院

 今やオゾンを利用した殺菌消毒作業は、医療施設において必要不可欠の技術となってきています。殺菌は、厳密には滅菌と消毒がありますが、煮沸などの物理的な方法により殺菌することを滅菌と呼び、科学的な方法により殺菌することを消毒と呼んでいます。ここでは厳密に区別せずに殺菌作用について述べることにします。

 今まで気体中で行う殺菌剤としては塩素、二酸化塩素、一塩化臭素、エチレンオキシドやオゾンなどが使われてきました。いずれの殺菌剤もその効果は酸化力の強さに依存するものです。中でもオゾンはフッ素に次ぐ酸化力があり、塩素と比較するとその効果は6倍超の酸化力があることで知られています。オゾンは、ここに掲げた中では殺菌力が高く、本来の目的からすると殺菌剤の中では最も優れていると言えるでしょう。しかし、オゾンは前述したように高価であり、残存時間が短いため、この二項については他の殺菌剤に1歩譲っていることも事実です。

 殺菌を行うには気体の中で行う場合と液体の中で行う場合とがあります。固体表面を殺菌する場合もありますが、これは気体の中で行う場合と同じと考えてよいでしょう。殺菌の対象となる菌やウイルスは無限とも言えるほど種類は多くありますが、これまでに水中で検討された微生物をリストアップしたのが表3-3になります。ここにリストアップされたいずれの微生物も比較的短時間で不活化率がほぼ100%に達しており、ほとんどの微生物はここに示された処理条件で不活化したことを示しています。
ここで不活化率とは、保存による殺菌処理をする前の微生物の数とこの数のうち、オゾン殺菌によって取り除かれた数の割合で示しています。

 この表の結果から、殺菌にはオゾン処理がいかに有効であるかがわかります。また実際にオゾンに対するいろいろな微生物の耐性を表の中では殺菌作用定数CTとして評価しています。
このCTとは、オゾン濃度C(mg/ℓ)と接触時間T(分)の積で表され、殺菌作用はCTに逆比例していています。表中の値は、99%微生物を不活化するCT値で評価しています。また、CTが小さいほどオゾン処理がしやすい微生物であることを意味しており、不活化率やCT値をみると、ほとんどの微生物はオゾンによる殺菌効果が顕著に現れていると言えます。しかし、微生物によってはあまり処理効果の高くないものもあることがわかります。オゾン殺菌とは、対象とする菌を酸化して活性を失わせてしまうことであり、気体・液体による区別も分類もないのです。